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内宮界隈 施設・商店

中村太助商店(現:勢乃国屋)

 内宮宇治橋前に中村太助商店(現:勢乃国屋)があります。明治45(1912)年現在の情報が記載された『宇治山田商工名人録』には「土産物商兼旅館 中村太助」とありますので、当初は旅館も兼業していたようです。しかし、大正3(1914)年の『宇治山田商工名人録』には「土産物商兼魚商 中村太助」とありますので、この間に旅館業からは撤退したと考えられます。
 内宮前「太助庵」さんHPによると、中村家さんは代々河崎において屋号が蒲鉾屋で魚の卸問屋をなさっており、代々「太助」の名を襲名なさっていました。4代目の方が、河崎から内宮前に移転し、5代目の方が魚の卸問屋より現在の勢乃國屋の前身でもある中村太助商店というみやげ物屋に大転換なさったそうです。

中村太助商店絵葉書1
左:裏面 原寸:長辺13.8㎝×短辺9㎝
右:表面

 山形県に出された実逓便です。表面上部に「郵便はかき」とあります。昭和8年に「郵便はがき」に改称されましたので、消印は大正14年のものだと考えられます。裏面には「海産物・伊勢物産」の記載があります。


中村太助商店絵葉書2
左:たとう 原寸:長辺16.3㎝×短辺9.5㎝
右:表面  原寸:長辺14.1㎝×短辺9.1㎝
 印刷:絵画研究会

左:伊勢内宮宇治橋前 中村本店  伊勢内宮宇治橋
中:本店陳列場の一部  中村本店謹製(神代餅)
右:本店応接室  伊勢内宮前 宇治橋公園内売店

 宇治橋公園売店の写真がありますので、昭和7年3月以降に作成されたものと思われます。


中村太助商店チラシ1
原寸:長辺38.4㎝×短辺17.8㎝
 鳥瞰図に朝熊山ケーブルが記載されていますが、伊勢電鉄・参宮電鉄が描かれていません。よって大正14(1925)年以降、昭和5(1930)年以前に作成されたものと考えられます。

中村太助商店チラシ2
原寸:長辺26.4㎝×短辺12.6㎝


中村太助商店チラシ3
原寸:長辺26.8㎝×短辺12.5㎝

 チラシ2・3とも宇治橋公園が描かれていますので昭和7(1932)年以降に作成されたものと考えられます。


中村太助商店『伊勢參宮の栞』
原寸:長辺17.8㎝×短辺10.5㎝
左:表紙 右:裏表紙

左:本店階上学生無料休憩所  右:山田駅前支店
原寸:長辺6.5㎝×短辺4.5㎝
 宇治橋公園の記述のある『參宮案内』です。収録されている地図には伊勢電鉄と参宮電鉄が描かれていますので、昭和7(1932)年以降昭和11(1936)年に作成されたものだと考えられます。
 栞に掲載されている「中村商店御案内」です。
一、弊店は内宮宇治橋前でありまして内宮電車待合所正面で御座います。又神都バス停留所になつて居りますから何れへ御越になるにも大變御便利で御座います。
一、弊店は百貨店式大物産館で御座いまして伊勢物産は殘らず一堂に集めて居ります。
屋上には大時計が御座います。
一、弊店は山田、二見、鳥朋に於ける主なる旅館の休憩所及出張所になつて居りまして、階上には學生専用大休憩所が御座いますから御遠慮なく御利用下さい。
弊店は左記族館の休憩所及内宮前出張所になつて居ります。
山田 宇仁館、藤屋、橘屋、菊屋、油屋、高千穗館、千秋樓、松島館支店、小川其他
二見 二見館、朝日館、松島館、紅葉館、いろは館、吸霞園、麻野館、松新、臨海樓、米長、太田館其他
鳥羽 待月樓、錦浦館、封神館、角卯、海月、長門館其他
一、弊店は山田騨前支店に御接待御案内部を設けて居りますから何なりと御用仰付け下さい。
參宮に開する一切の御世話を無料奉仕致します
一、弊店は本店に隣接しや風光明媚眺望絶佳の高丘に宇治橋公園を経營致して居ります。園内には二千餘坪の大運動遊技塲の外一時に優に千數百人を容るヽ、屋内無料体憩所がありまして、一般參宮團體客に開放何時にてもお茶の用意が致してありますから御利用下さい。
其外參宮館、賣店等御座います。
一、弊店は宇治橋公園内に參宮館を経營致して居ります。參宮館は神宮の御事蹟及び歴史上の重大史實、古來の參宮風俗、神都の市民が神恩奉謝の至念を捧げて神宮に奉仕する淳朴なる郷土風俗を精巧なる十三塲面のパノラマに最新式電氣應用自動装置によりて其實態を表現したもので御座いまして、國民精紳の作與に資し眞に我國體の精華を發揚せしめる神郡唯一の施設で御座います。
◇參宮館入塲料
大人金拾鑓
小入金五銭
學生、児董團體には特別御優待捌引を致します。
皆樣の忠僕中村の無料サービス
一、御紳樂奉奏手績
多数團體にて混雑する場合がありますから前以て日時を記して中村へ御通知下さいますれば弊店は神宮の御用を勤めて居りますから御殿へ手績を致します。
一、神宮境内無料御案内
弊店は接待案内部を設けて居りますから神宮境内の主なる建物其他諸般の事にっいて親切丁寧に御説明申上ます。
一、御參拜中御手荷物は無料にて御預り申します
内宮は宇治橋より御本殿迄約往復一粁七餘程ありますから御手荷物はお置きになりまして御身輕に御參拜下さい。山田御着の節は驛前支店に御手荷物をお預け下さい、弊店の運送部が内宮前本店まで御運びしまして御參拜中御預り申上ます。
一、湯茶の無料御接待
御辮當御召上りの節には階上學生專用大休憩所にて御接待致しますo
一、御中食辨當の準備
御入用の節は前以て値段(二拾錢 二拾五錢 三十錢)数量を御通知下されば如何様なものにても準備致します。
一、雨傘をお貸し致します
雨天の節は御遠慮なく御使用下さい。
一、參宮記念寫眞の寄贈
御希望により弊店專屬爲寫眞に撮影せしめ一枚は寄
致します。
一、電車自動車其他乘物の御世話
一、御買物の無料配達
御指定の塲所へ確實迅速に配達致します。

 ここには、宇治橋公園及び参宮館は中村太助商店が経営していたとあります。


左:平成18年12月23日撮影
中:平成20年5月4日撮影

 現在は、中村太助商店の精神を受け継ぎつつ、屋号を「勢乃国屋」として営業を続けていらしゃいます。

左・右:平成20年8月23日撮影
 また、勢乃国屋さんから御幸通を120メートルほど北に進んだ東側に、「太助庵」という茶房を開いていらっしゃいます。なお、この写真は開店準備中の時のものです。
 太助庵さんHPによると、この建物は昭和9(1934)年に5代目の方により商品保管倉庫として建てられたそうです。
 私は、開店して間もない頃に伺いました。アンティークなインテリアがあったり、古写真などが展示されたりしているお店で、HPにある「温故知真」のとおり、近現代の伊勢を体感することのできるお店でした。


令和2年8月15日撮影
 さらに、外宮前「つるや旅館」さんの北向いで、「勾玉亭」(1Fお土産屋・2Fレストラン)を営業なさっています。この建物は内宮前にあった中村太助商店の建物を模したものとなっており、まさに「温故知真」を体現なさったものであると思います。


〔参考文献〕
神都興信所 『宇治山田商工名人録』 大正元年 p.1
実業興信所 『宇治山田商工人名録』 大正3年 p.1

〔参考HP〕
勢乃国屋さんHP  最終アクセス:令和3年3月12日
太助庵さんHP コンセプト「温故知真」   
          最終アクセス:令和3年3月13日



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