いにしえの伊勢  home

宮川~外宮界隈 旅館

宇仁館別館 藤屋

 藤屋は『東海道中膝栗毛』の弥次さんと喜多さんが宿泊した宿屋で、妙見(現尾上)町にありました。明治30年代に尾上町の店をたたみ、山田駅(現伊勢市駅)前右側3件目に移転したようです。


山田駅前藤屋初代建物


 藤屋の右側の建物は、明治32年に西田周吉氏が創業した『伊勢朝報』の社屋です。


山田駅前藤屋二代目建物・宇仁館パンフレット

宇仁館パンフレット
吉田初三郎「伊勢神宮参拝御図絵」
原寸:縦12.4㎝×横17.7㎝


 伊勢朝報の跡地を吸収し、大きく改築された建物です。右側のパンフレットにはこれと同じ建物の写真があります。裏面地図には「宇仁館別館」と図示されています。また、同時期に発行されたと考えられられる吉田初三郎の表面地図には「宇仁館別館藤屋」と書かれています。また、藤屋の説明に「駅前右側三軒目木造三階楼にして大正十四年建築にして古代風なり。元藤屋は妙見町(筆者注:尾上町)に有り当時膝栗毛彌次郎兵衞喜多八の宿として有名なり今尚別名彌次喜多楼と云ふ」とあります。よって、少なくも大正14年までには藤屋の経営権が宇仁館に移譲されたと考えられます。
 さらに、「裏三階楼は元尾上町に有り勅使齊館なりしを大正十五年移築し当時勅使の間目下菊の間として現存し大小数十室を有し殊に浴室は近代的にして設備等の遺憾なく完備せり」とあります。尾上町で「勅使齊館」と呼ばれていたのは大正末に衰退した「十五楼」ですので、その建物を移築したと考えられます。


宇仁館別館弥次喜多楼 藤屋 絵葉書 (三代目建物)
左:たとう 原寸(広げた状態)縦18㎝×横19㎝
中:表面  絵葉書原寸縦9㎝×横13.8㎝  印刷所:絵画研究会
右:本館前景


左:庭園の一部  中:日本客室の一部  右:洋室客間の一部


 昭和9(1934)年に宇仁館別館藤屋から火災が発生し、本館も半焼しました。その後に再建されたものです。


〔参考文献〕
秋田耕司『宇仁館物語』
  平成30年8月  NFC技研 p.50~52
写真集伊勢編集委員会編
  『写真集 明治 大正 昭和 伊勢 二見 小俣』
         昭和61年8月  国書刊行会 p.84
©2020 sadanai               home