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治山田駅・古市・倉田山界隈 旅館

麻吉旅館

 麻吉旅館は十返舎一九の『東海道中膝栗毛』第五編追加に「モシこうしようかいな。これから柏屋の松の間をおめにかけふわいな。ただし麻吉へお供しようかいな」と出てくる旅館です。よってこれが成立した文化3(1806)年には著名な旅館であったと考えられます。
 古市が隆盛していた頃は常に20名以上の専属の芸者を抱えていました。伊勢音頭の舞台も備えており、浮世絵にも描かれているそうです。

I様所蔵「絵葉賀喜 伊勢山田市 麻吉事 旅館御料理天南第一楼」
左:たとう   原寸長辺14.4㎝×短辺9.2㎝
右:絵葉書表面 原寸長辺13.8㎝×短辺9㎝


左:伊勢山田古市 旅館御料理 麻吉事 天南第一楼
中:伊勢山田古市 旅館御料理 麻吉事 天南第一楼より東方朝熊岳を望む
右:伊勢山田古市 旅館御料理 麻吉事 天南第一楼より北望の景
 表面罫線が下から1/3の所にありますので、大正7(1918)年以前に作成されたものだと考えられます。「絵葉書」を「絵葉賀喜」と表記しているのが洒落ています。

以下はそれぞれ別の機会にsadanaiが入手した絵葉書です。

伊勢古市御料理旅館麻吉全景
左:裏面 原寸:長辺14㎝×短辺9.1㎝
右:表面
 これも表面罫線の場所から大正7年以前に作成されたものです。『写真集 明治 大正 昭和 伊勢 二見 小俣』掲載の写真と同じものです。


伊勢古市旅館あさ吉
左:裏面 原寸:長辺14㎝×短辺9㎝
右:表面

 表面罫線の場所が1/2の場所にありますので、大正7(1918)年以降に作成されたものです。人力車の車夫は麻吉の法被を着ています。麻吉の従業員が車夫を務めていたのでしょうか?次の「南天第一楼絵葉書1」「南天第一楼より朝熊岳の遠望」は表面及び原寸が一緒ですので同じシリースのものかと考えられます。


天南第一楼絵葉書1
左:南天第一楼全景  右:絵葉書表面 原寸:長辺14㎝×短辺9.1㎝
左:南天第一楼大広間  右:南天第一楼邸内尾崎咢堂先生御書斎
 HP「三重の文化 文化財データベース『麻吉旅館名月・雪香之間』」によると、「名月・雪香之間は、床が高い寄棟造桟瓦葺の木造平屋建の建物で、かつて護憲運動の中心人物であった尾崎行雄(=咢堂)が書斎としていたことでも知られる。」とあります。右画像が雪香の間の画像があります


天南第一楼より朝熊岳の遠望
左:絵葉書裏面  右:絵葉書表面  原寸:長辺14㎝×短辺9.1㎝
 写真右側の山は「宗安寺山(浅香山)」です。昭和51年3月に発行された、野村可通氏『伊勢の古市あれこれ 道歌の巻』によると「最近その宗安寺山が売りに出さ、不動産会社の手でうつそうと緑をたたえた樹木が、惜しげもなく伐り倒され、たちまち禿山にされたばかりか、」引き続いて大型ブルドーザーが何台も入って、隣接の寂照寺領であった御岩社(つづら石を祭る社)、御陰社跡、観音堂跡の霊地をともに引きならし、広大な住宅予定地として、様相を全く一変してしまった。」とあります。また、昭和51年7月に発行された『伊勢の古市夜話 長嶺炉談』には、「ありし日の宗安寺山(麻吉の二階より望む) 昭和49年1月写」「宗安寺山切崩し後の整地工事 昭和49年10月写」の画像が掲載されています。よって宗安寺山の切り崩しは昭和49年に行われたと考えられます。


天南第一楼絵葉書3
左:天南第一楼 全景
中:天南第一楼 大広間
右:表面 原寸:長辺14.1㎝×短辺9.1㎝
 これらも表面の様子から、大正7(1918)年以降に作成されたものです。


旅館あさ吉暑中見舞葉書
(左から)
1枚目:大正13年 裏面 2枚目:同表面
原寸:長辺12.8㎝×短辺7.9㎝
3枚目:大正14年 裏面 4枚目:同表面
原寸:長辺14.1㎝×短辺9.1㎝
 いずれも三重県内に出された実逓便で、官製葉書に挨拶文印刷がされています。字配りが若干異なりますが文面は同じです。関東大震災後、大正12年(1923)年11月15日に縮小された葉書が発売されました。(画像1・2枚目)大正14年(1925)5月1日に元のサイズの分銅はがきに戻りました。(画像3・4枚目)絵葉書のサイズ・表面の印字からこの時期の葉書だと考えられます。


左:古市通から麻吉旅館を望む  (平成20年1月1日撮影)
中:麻吉旅館大広間から朝熊山を望む (平成20年8月9日撮影)
右:麻吉旅館全景  (令和3年3月31日撮影)



〔参考文献〕
麻生磯次校注『東海道中膝栗毛』日本古典文学大系62 
            昭和33年5月  岩波書店  p.306
野村可通『伊勢の古市あれこれ 道歌の巻』
            昭和51年3月 三重県郷土資料刊行会 p.105~106
野村可通『伊勢の古市あれこれ 道歌の巻』
            昭和51年7月 三重県郷土資料刊行会 p.106~107
写真集伊勢編集委員会編 『写真集 明治 大正 昭和 伊勢 二見 小俣』
            昭和61年8月 国書刊行会  p.79

〔参考HP〕
ブログ『レトロの小部屋』「官製 通常はがきの歴史4
                     令和3年2月23日閲覧
「三重の文化 文化財データベース『麻吉旅館名月・雪香之間』
                     令和6年8月10日閲覧



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